ぼくは解決志向アプローチを長年、仕事に取り入れてきました。この考え方に出会ったことで、チームとの関わり方、メンバーとの対話、組織づくり。すべてが変わりました。
解決志向アプローチの面白いところは、「すでにうまくいっていること」に目を向けるだけで、チームが前に動き出すことです。難しいスキルや資格は必要ありません。考え方の方向を少し変えるだけで、メンバーの表情が変わり、対話の質が変わり、チーム全体の空気が変わっていきます。
この記事では、解決志向アプローチの基本的な考え方と、職場ですぐに使える実践方法を、ぼく自身のマネジメント経験をまじえてお伝えします。
解決志向アプローチとは何か?
解決志向アプローチとは、問題の原因を掘り下げるのではなく、「すでにうまくいっていること」や「望む未来の姿」に目を向けて、そこから解決への道筋をつくる考え方です。
もともとはカウンセリングの手法として生まれましたが、そのエッセンスは企業のマネジメントやチームビルディングにもとても相性がよいのです。
ぼくらは普段、問題をさがす思考に偏っています。社会人になってから「問題を見つけて解決する」ことを叩き込まれてきたからです。問題解決力の高い人が評価される文化も根づいています。
それ自体は悪いことではありません。ただ、問題ばかりに気をとられすぎると、解決へ向かうさまざまな可能性が見えにくくなってしまうのです。
解決志向アプローチは、その偏りにバランスを加えるものです。「足りないもの」だけでなく「すでにあるもの」にも目を向ける。からだの栄養と同じで、バランスが大事なんですね。
なぜ問題ばかり見てしまうのか?
人がリスクに注意を払いやすいのは、生き延びるための本能です。これは自然なことです。
でも、仕事の場面で問題さがしが行きすぎると、困ったことが起きます。
問題の矛先が他人に向けば関係性が悪くなる。自分に向けば気持ちが疲弊する。どちらにしても、チームのエネルギーが消耗していきます。
チームに遅刻をくり返すメンバーがいました。上司からは「組織の規律が乱れるからなんとかしろ」と言われ、ぼくは何度も叱りました。でもダメでした。二人とも疲弊して、そのメンバーはぼくと話すこと自体を避けるようになったのです。
「いったい自分は何をやってるんだろう…」と思いました。ぼくらは協力しあって仕事を進め、成果を出す必要がある。なのに「遅刻」という問題をなくすために、二人の関係がどんどん壊れていく。
ぼくは、ばかばかしくなって遅刻で叱るのをやめました。すると、そのメンバーからの報連相が少しずつ増えて、関係も改善したのです。
「問題」は人がつくるもの。「問題」にするかしないかは人が決める。ときどき問題さがしに引っぱられることがあります。だからこそ、この原則を何度でも思い出す必要があるのです。
解決志向の3つの中心哲学とは?
解決志向アプローチには、3つのシンプルな哲学があります。これはSFA(ソリューション・フォーカスト・アプローチ)の中心哲学です。
1. うまくいっているなら、直そうとしない
せっかくうまくいっていることに手を入れて、わざわざ壊してしまう。そんな経験はありませんか?
問題さがしが過剰になると、問題がないところにまで問題をつくってしまいます。うまくいっていることはそのまま大切にする。シンプルですが、意外とできていないことです。
2. うまくいっていることがわかったら、もっとやる
チームの中で「あ、これいい感じだな」と思うことがあったら、それを意識的に増やしていく。小さな成功の種を見つけて育てる感覚です。
たとえば、あるメンバーが自発的に提案をしてきた。それがうまくいったなら、「次もやってみよう」と広げていく。うまくいっている行動を見つけて増やすことが、チーム全体を良い方向に動かします。
3. うまくいっていないなら、違うことをする
同じやり方でうまくいかないのに、同じことをくり返していませんか?
「もっと厳しく言えば伝わるはず」「もう一回説明すればわかるはず」。でも実際には、同じアプローチの強度を上げても結果は変わりません。うまくいっていないなら、やり方そのものを変える。違う道を試してみる勇気が、突破口になります。

実際の職場でどう使えるのか?
「考え方はわかった。でも具体的にどうすればいいの?」。そう思いますよね。ここでは、3つの哲学を職場で使う方法を、ぼくの実践をまじえてお伝えします。
使い方1:メンバーの中にある「うまくいっている行動」を見つけて増やす
メンバーが相談や提案をしてきたとき、その中身だけでなく「相談に来た」「提案してくれた」という行動そのものに注目するのがポイントです。
たとえば、普段はおとなしいメンバーが「この外注先のデザイン、やり直したい」と遠慮がちに言ってきたとします。このとき、提案の良し悪しを判断する前に、まず「自分から言いに来てくれた」という行動を認めます。「よく言ってくれたね」と。
そのうえで、「じゃあ、どう直したいか自分の言葉で整理して伝えてみよう」と背中を押す。メンバーは「言ってよかった」という体験を得て、次も自分から動くようになります。これが「うまくいっていることがわかったら、もっとやる」の実践です。
使い方2:うまくいかないとき、「犯人さがし」をやめて「できたこと」から始める
プロジェクトが失敗したとき、ぼくらはつい「何がダメだったか」「誰の責任か」を追求しがちです。でも解決志向では、まず「その中でもうまくいった部分」を見つけるところから始めます。
ぼくが全社プロジェクトで他部門と協力したとき、1回目の取り組みで損失が出ました。相手部門は「自分たちのやり方は悪くない」と譲りません。ここで原因追求を始めたら、対立が深まるだけです。
そこで、1回目の中でうまくいった部分に注目しました。すべてが失敗だったわけではなく、一部はよい結果が出ていたのです。「ここはうまくいったよね」とお互いに認めあうところから対話を始めると、「じゃあ、この部分を活かして次はこうしよう」という建設的な話に変わっていきました。
「うまくいっていないなら、違うことをする」。原因追求という「いつものやり方」をやめて、できたことから対話を始める。それだけで、対立していたチーム同士が協力者に変わりました。
解決志向を始めるための最初の一歩は?
解決志向アプローチは、特別なスキルや資格がなくても始められます。明日からできる3つのことをご紹介します。
① 「最近うまくいったこと」を聞いてみる
1on1やミーティングの冒頭で、「最近、仕事でうまくいったことはありますか?」と聞いてみてください。問題の話から始めるのではなく、うまくいっていることから話を始める。それだけで対話の質が変わります。
② できたことにも目を向ける
ぼくらは「できなかったこと」に目がいきがちですが、「できたこと」にも同じだけ注目してみましょう。あたりまえにやれていることを言葉にする。「ちゃんとやれてるね」「ここはうまくいってるね」。その一言が、メンバーの自信と意欲を育てます。
③ 望む未来の姿を一緒に描く
「この問題をどう解決するか」ではなく、「どんな状態になったらいいか」を一緒に考えてみてください。望む未来の姿が見えると、そこへ向かう道筋も見えてきます。そして実は、その道筋の一部はすでに始まっていることが多いのです。
解決志向アプローチは、人のチカラを引き出すマネジメントです。問題を叩くのではなく、すでにあるチカラを見つけて活かす。そのくり返しが、チームを確実に前に進めていきます。
よくある質問
Q. 解決志向アプローチは問題を無視するということですか?
いいえ、問題を無視するのではありません。問題の存在は認めたうえで、「原因の深掘り」よりも「すでにうまくいっていること」や「望む未来の姿」に注目して、そこから前に進む方法を見つけるアプローチです。大きなリスクや安全に関わる問題は、もちろん対処する必要があります。
Q. チーム全員が解決志向を理解していなくても効果はありますか?
あります。まずリーダーやマネージャーが一人で始めるだけで、チームの雰囲気は変わり始めます。ぼく自身も、自分一人の関わり方を変えたことで、メンバーからの報連相が増え、チーム全体が前向きに動き出しました。解決志向は周囲にも自然と広がっていく性質があります。
Q. 解決志向アプローチを学ぶのに特別な資格は必要ですか?
特別な資格は必要ありません。まずは「最近うまくいったことは?」と聞くところから始められます。難しい技法を覚えるよりも、考え方の方向性を変えることが大切です。このブログでも、職場ですぐに使える方法を具体的に紹介しています。
