引き継ぎたいのに、引き継げない
ぼくらのグループには全社イベントを企画・運営する業務があります。今期はぼくがやってきた予算計画の仕事をあるメンバーに経験してもらい、引き継いでいこうと思っていました。
そしてそのメンバーは見事にやりとげました。今は心からほっとしています。
ただ、ここに至るまでには失敗がありました。実は前の期から予算計画を引き継ごうとしたのですが、うまくいかなかったのです。
「言い訳」に聞こえてしまう正当な理由
そのメンバーは幅広く業務を見渡せるし、理解力が高いし作業も早い方です。しかし急な遅刻や欠勤が多いことで納期が守れないという問題がありました。
上司からは「しっかり指導しなきゃダメじゃないか」と言われ続けていました。
ぼくからそのメンバーに「急な遅刻や欠勤をしたり納期遅れになると、後が大変になるから無くす努力をしてほしい」と伝えていました。
するとこんな返事が返ってきます。
「急に体調が悪くなっているのに、そんなこと言われても困ります!」
「出社の途中で仕事の電話が入ってしまったので遅刻しました」
「他の案件が忙しいので、この案件は間に合いませんでした」
そのメンバーにしてみれば正当な理由だと思います。しかし、ぼくからみたら言い訳にしか聞こえないこともしばしばでした。
結局、ぼくはそのメンバーの遅刻や欠勤にとらわれてしまい、前の期の予算計画の仕事はぼくが全てやってしまうことになったのです。これではいつまでたっても引き継ぐことができません。
丁寧に教えれば、できるはず。そう思い込んでいた
今回も同じ壁にぶつかりました。お願いしていた業務は進んでいません。肝心なときに休んでしまう。このままでは前回の繰り返しです。
初めの一歩を踏み出してもらうために、予算計画のつくり方を、必要な素材をそろえて丁寧に説明しました。
「なるほど、よくわかりました!これならできそうです」
良い返事が返ってきます。でも結局、お願いした納期が守れない。
「緊急案件の対応でそれどころじゃないです」
確かにそうなんです。そのメンバーの担当は緊急案件が多いことはぼくも知っていました。にもかかわらず「自分の工夫でなんとかしてほしい」と伝えていたのです。
今思えば、「丁寧に教えたのだから、あとは一人でできるだろう」という思い込みがありました。教えて、一人でやらせて、報告させて、チェックする。これがOJTの基本。ぼく自身もそうやって育てられてきたし、それが「当たり前のやり方」だと信じて疑いませんでした。
でも、その「当たり前」が、このメンバーには合っていなかった。そのことに、ぼくはなかなか気づけなかったのです。
「うまくやれてる瞬間」に気づいた
「今のこのメンバーには、難しいことを要求しているんだな…困ったなあ。何か他のやり方を考えなきゃなあ」
ここから少しだけ、視点が変わったような気がします。
再び、リモートで予算計画づくりの説明をしている時のことです。説明の途中で、そのメンバーはブツクサと独り言を言いながら予算計画の作業を進めていました。
以前のぼくなら、「ちゃんと聞いてほしい」と思ったかもしれません。でもこの時は、「ん?…ちゃんと自分で考えながら作業してるなら、この状態もありだよなあ…」と気づき、ひと段落するまで作業を続けてもらいました。
ぼくの中の「まず説明を聞いてから、一人でやってみる」という常識が、少しだけ揺らいだ瞬間でした。
これはいける!と思い、「次回もこのスタイルで進めるのはどう?」と聞いたら
「しっかり時間を確保して、落ち着いて取り組めるので良いです。わからないところもすぐに質問できます」
というので、その後はリモート同席スタイルで進めることにしました。電話を無視できる口実にもなりますし、他の業務に流されることなく作業に集中できるのだと思います。ぼくも同席しているだけなので、自分の仕事を進めることができます。
自分から「ここまでやっておきます」と言い出した
数回リモート同席で作業を進めた後、変化が起きました。
「別件が落ち着いてきたので、ここまでは一人でやっておきます。メールしますので、良い時にチェックしてください」
だんだん頼もしく見えてきました。
もし、あのリモートの打ち合わせの時、視点が切り替わっていなかったらどうだっただろう?たぶん作業している様子に気づいても、「自分一人でできそうだな」と思って、「じゃあ2日後にできたものを共有して確認していきましょう」となって、また納期遅れになっていたと思います。
リモート同席スタイルによって予算計画の策定はグングン進み、少し予定より遅れたものの、先日社長決裁まで通すことができました。予想以上の出来です。
そのメンバーが一段成長できたようで、本当に嬉しい出来事でした。
ぼくの「常識」が、一番の壁だった
振り返ってみると、ぼくの前に立ちはだかっていた壁は、そのメンバーの遅刻でも欠勤でもなかったと思います。一番の壁は、ぼく自身の中にある「常識」でした。
OJTとはこうあるべき、という固定観念。
教えて、やらせて、報告させて、チェックする。ぼく自身がそうやって育ってきたから、それが唯一の正解だと思い込んでいました。「教えたら一人でやれるはず」「自分で工夫して納期を守るのが社会人だ」…そういう自分の中の常識が、このメンバーに合ったやり方を見つけることを邪魔していたのです。
メンバーに貼ったレッテル。
「言い訳を言う人」「自分で動けない人」というレッテルも、ぼくの常識がつくり出したものでした。問題のある部分ばかりに目が向いて、うまくやれている部分が見えなくなっていた。
ぼくは窮地に立たされてようやく、OJTの「正しいやり方」へのこだわりを手放し、そのメンバーが言っていることにちゃんと耳を傾けたのです。そこからようやく「この人にはこの人のやり方がある」と思えるようになり、「できているところ探し」が始まり、解決への道筋につながっていったと思います。
結局、そのメンバーの遅刻や欠勤の問題はあいかわらずです。でも「できているところ」を見つけて活かすことで、大きな成果を出すことができました。
自分の中にある「当たり前」を疑ってみる。それだけで、メンバーの見え方が変わることがある。ぼくにとっての大きな学びでした。
問題を直そうとするのではなく、「うまくやれている瞬間」を見つける。自分の中の「こうあるべき」を手放した時、メンバーの成長のヒントが見えてきます。
