「全く仕事をしない」と言われたメンバー
先日、上期の部下の評価を終えました。メンバーはみんな頑張ってくれたのですが、特にあるメンバーは素晴らしい成果を出してくれました。評価をつけながら2年前を思い出していました。あの頃は、今の仕事振りをまったく想像できなかったなあ。
そのメンバーはもともとぼくの同僚で、人懐っこくて、グルメで、一緒にいると楽しい人です。趣味はサーフィンで、自然をこよなく愛しています。一方で、仕事では良い評判を聞きませんでした。
2年前、そのメンバーの上司から「仲が良さそうだから引き取ってほしい」と相談されました。よく話を聞いてみると、「まったく仕事をしない」というのです。紆余曲折ありましたが、結局ぼくのグループの仲間になりました。
報連相がない。仕事の依頼も受けない
一緒に仕事をして初めて、「仕事をしていないように思われても仕方ない」と理解しました。仕事の依頼は受けないし、報連相がほぼないのです。当初は面くらいました。ぼくの上司からも「あいつは何をやってるんだ?」と怒られるし、他のメンバーにも良い影響を与えないと思っていました。
何度となく最低限の進捗報告はしてほしいと伝えましたが、「必要ない」の一点張り。どうして進捗報告が嫌なのか聞いてみると、自分は仕事をうまくやれているし、あれこれ言われて仕事内容が変わると、思っていたように進まないということでした。
以前のグループでは肩身の狭い思いをしてきたようで、少し意固地になっているようにも見えました。ぼくとしては、このグループが居場所であることを感じてほしいと思っていました。
「好き」と「得意」をテーマにつなぐ
ちょうど全社テーマを作って各担当に持たせてほしいと要請があったので、4つテーマを抽出し、誰に何を担当してもらうか考えました。特にそのメンバーのテーマは迷いました。
いろいろ考えた結果、環境テーマをお願いすることにしました。このテーマは外部の会社と協働して進めることが多くなります。彼はサーファーで自然を愛しているし、外部の会社に動いてもらうコミュニケーションが得意だと自負していました。この2つは環境テーマを動かす大きな力になります。
海洋プラスチックの話をして環境への関心の高さを確認したところ、海岸のプラスチックごみ拾いを手伝ったことがあるとのこと。これならいけるかもと思い、環境テーマについて尋ねてみました。
ぼく:「環境テーマやってみない?協力会社と協働していくことが多いし、適任だと思うんだよね」
メンバー:「え、いやだよ。大変だもん」
この反応は全面的に否定した感じではなかったので、さらに聞きました。
ぼく:「ぴったりのテーマだと思うけどなあ。何がいや?ぼくも手伝うよ」
メンバー:「報告資料作成したり、報告したりするのはいやだ。テーマ自体はいいと思う」
ぼく:「じゃあ、資料作成や報告はぼくと手分けしてやろう。それならいい?」
メンバー:「それならいいよ」
本来なら担当としてすべてお願いするところですが、これまでの仕事の仕方を観察していると、それは到底無理だと感じていました。だからまずはテーマを持ってもらうことをゴールとして、報告作業はぼくが受け持ってもいいと思っていました。
環境テーマの仕事は筋がよくて必ず成功できる見通しがあるし、進め始めたらきっとやりがいを感じて、自分の仕事にしてくれると思ったからです。
デザインの仕事で終わりたい
やっと環境テーマが進み始めたと思った矢先のことです。そのメンバーが元のデザイングループへ異動願いを出したのです。ショックでした。ようやく活躍してもらえるテーマが立ち上がったばかりなのに。
面談で話を聞きました。
「俺、デザインをずっとやってきたから、最後もデザインの仕事で終わりたいんだよね。異動がダメだったら、ここで環境の仕事やっていくよ。環境の仕事、好きだからさ」
そうか。この人にとってデザインの仕事はとても大切なものなんだ。でも環境の仕事をポジティブに捉えてくれていてよかった。
ここにいる間はデザインに対する想いや「得意だ」という自負を大事にしつつ、今のグループで意義を感じる仕事をしてもらいたいと思いました。
結局、異動は叶わず、引き続きぼくのグループで仕事をすることになりました。
ぼくのグループの仕事はデザインが重要な位置を占めるので、メンバーにデザインのアドバイスをしてほしいと伝えました。
「それはそうだよね。ここのメンバーはデザインを専門にやってるわけじゃないから」
と快諾。やり始めてからのメンバーの様子を見ていると、アドバイスが刺激になり学びになっているし、本人もデザインについて語るときは力強さを感じます。
報告の8割を一人でこなすまでに
環境テーマの報告会では、そのメンバーが主役として見えるように配慮したり、協力会社にバックアップをお願いしたりしていました。
少しずつ環境テーマの仕事に対する思い入れが強くなっていき、7月の報告会では資料準備と発表の8割を一人でこなしていました。他の仕事でも報連相を求めればきっちりしてくれるようになりました。
「ここまで来たかあ。頑張ってきたなあ…」
熱いものがこみ上げると同時に、とても頼もしく見えました。変わったというより、もともと持っているものが引き出されていった、という感じでしょうか。
大切にしていることや関心を、成果と成長につなげよう。
「仕事をしない」と言われたメンバーが、報告会の主役になるまでに変わった。ぼくがやったことは、本人の「好き」と「得意」を仕事につなげただけです。
