表に出てこない気持ちや考え
ぼくらが仕事を進めるとき、表現された言葉や行動を頼りにしています。でも、表現されているのはごく一部で、気持ちや考えのかなりの部分は周囲には見えていません。
時々、メンバーが自分の気持ちや考えを話してくれる場面があります。そうすると、その気持ちを汲み取って、本人も満足できるし組織の貢献にもつながる仕事をつくっていくことができます。
今回は、見えていなかった「意欲」をすくいあげて、メンバーの満足と成果の両立につなげることができたエピソードです。
「一人で異動してください!」
ぼくのチームはある年、グループごと別の部門へ異動となり、新しい仕事も担うことになりました。希望しない異動であり、今までやったことのない仕事が増えるので、メンバーは大反対でした。3名のメンバーに「異動するなら他の部門に希望を出します!」と脅されたほどです。
その中でも、あるメンバーは大きな声で何度もぼくに訴えていました。
「一人で異動してください!私たちは異動しませんよ!今でも忙しいのに、あんなところ行ったら大変ですよ!」
自分の仕事以外はやらないメンバー
このメンバーは自分の仕事以外には興味を持たないし、他人の仕事を手伝うことはありません。役割を明確にして、それ以外の仕事には手を出さない。育成のつもりでテーマを与えても、
「今ちょっと自分の仕事で忙しいので出来ません!」
と即答で断られます。キャリアアップや成長のためだと説得しても、聞く耳を持ってくれません。上司の部長からは「ワガママすぎる!ちゃんとやらせてください!」とお叱りを受けます。
一方で、受けた仕事は高い責任感とクオリティで進める側面もありました。相手のニーズに最大級で応えるために過剰なほど尽くします。営業から頼りにされていて依頼が多く、残業が増えて疲弊してしまうこともありました。
「そこまでやる必要ないよ」と伝えたことがあるのですが、こんな返事が返ってきました。
「営業さんはかわいそうなんです!いろんな部署にデータが欲しいと要請しても相手にしてもらえない。たらい回しにされて私を頼ってくる。営業が頑張って売上を上げてるのに、手伝わないのはおかしいですよ!」
会社の業績に貢献しようという気持ちは本物でした。これを否定するのはおかしい。ぼくはこの活動をサポートすることにしました。
まずは話を聞くしかなかった
異動にメンバー全員が猛反対する中、会社のビジョンに基づいた方向性を自分の言葉で語りました。共感の雰囲気はあったのですが、具体的な話になると「自分たちの仕事ではない!」「仕事が増える!」と大合唱。総論賛成、各論反対です。
「これはもう話を聞くしかない」
話を聞いているうちに、2つの壁が見えてきました。ひとつはデジタル業務の知識も経験もないから不安。もうひとつは新しい部署との関係で、うまくやれるか不安だということ。
メンバーが心のうちに抱えていた不安を全員で共有したことで、前向きとまでは行かないまでも、落ち着きを取り戻せたように思います。
うまくいっている人のやり方を共有する
新しい部門に異動し、業務が進んでいく中で、あるメンバーがデジタル業務を新しい部署とうまく進めていることに気づきました。朝会で進め方を共有してもらい、メンバー全員に広げようと考えました。
そのメンバーに講師になってもらい、デジタル業務の進め方をレクチャーする勉強会を実施。外部の人に教えてもらうより、チーム内のメンバーから教わる方が「自分にもできるかも」「気楽に聞ける」という感覚があるようで、活発な質疑で理解を深めていました。
ここでようやく、デジタル業務推進の突破口を開くことができました。
「10点満点で何点?」で意欲を見つける
部門長からはデジタル業務の推進にスピードを上げるよう要請されていました。メンバーの進み具合や意識には差があります。
そこで評価面談のタイミングを使って、メンバー一人ひとりに聞いてみることにしました。
「新しい部署との業務関係について、うまくいっている状態を10点、まったく関係がない状態を1点とすると、今は何点ですか?」
「デジタル業務への関わりについて、積極的に取り組んでいる状態を10点、関心がない状態を1点とすると、今は何点ですか?」
点数を聞いて、その中身にどんな可能性が隠されているかを掘り下げます。
驚いたのが、異動に大反対していたあのメンバーでした。新しい部署との業務関係が7点、デジタル業務への関わりが8点と、とても高い点数だったのです。
実際にはデジタル業務はまだ進んでいないし、理由がまったく見当たらない。「なんでこんなに高いの?」と聞いてみると、
「新しいことを学ぶのは好きだし、会社に必要なら仕事を通じて学びたいです」
力強く、イキイキと話してくれました。見えていなかった「意欲」をすくいあげた瞬間でした。
もう少し聞いてみると、ぼくが話したビジョンによってデジタル業務の重要性を理解し、新しいことを学びたいという好奇心とデジタル業務が結びついたとのこと。あのとき語ったビジョンはちゃんと響いていたのだと、このとき初めて気づきました。
デジタル業務が進んでいなかったのは、ただ機会がなかっただけでした。
意欲に応える環境をつくる
そのメンバーの学びたいという積極的な意欲に応えたいと思いました。チーム共有のMACしかなかったところを、個人持ちのMACをメンバー全員に購入し、データを扱えるようにしたのです。
学びは加速し、新しいデジタル業務が広がっています。あれだけ反対していたメンバーが、今では意欲的にデジタル業務を進めてくれています。
見えていない「意欲」をすくいあげて、成果と満足につなげよう。
メンバーの関心や大切にしていることを知って仕事に活かすと、主役になって積極的に取り組んでくれます。「やらない人」ではなく「やる機会がなかった人」なのかもしれません。
