「なんでこの人を推すの?」と言われるメンバー
ぼくのチームに、次期マネージャー候補として推しているメンバーがいます。社内では「なんであの人?」みたいな反応をされることもありますが、実は仕事ができるのです。
そのメンバーの年齢はそれなりですが、社内の階級が低くとどまっています。理由は、前の部門での良くない評判が昇格を阻んでいるからです。
前の部門では遅刻や欠勤が多く、人事的な評価に影響が出ていました。それ以上に怖いなと感じるのは周囲の評判です。評判は根強く残り、その後の評価まで影響してしまうようです。
さらに評判を悪くしていたのが「しゃべり続けてしまう」こと。打ち合わせでも時間や周囲の反応に構わず、考えていることをしゃべり続けてしまいます。それが「協調性がない」「自分を制御できない」というレッテルになっていたようです。
「短所」が「長所」に変わった瞬間
そのメンバーはしゃべり出すと止まりません。最初に話そうと思ったことから話がそれていって、他の話に転々と移り、止めどなく続きます。
ぼくも最初は黙って聞いていましたが、途中で話を止めるようになりました。「相手の反応を見て話してください。他の人が話す時間のことも考えてください」と注意することもしばしばありました。
しかし、ある成果報告会で認識が一変しました。
月1回の成果報告会では、他の人の発表に対してコメントを求められます。チームから発言がないと「やる気が感じられない」と注意を受けます。ある月、ぼくが内容を知らない案件の報告がありました。ぼくは理解するのに時間がかかるタイプなので、その場で報告を聞いてもコメントが出てきません。
「まずいな、ぼくがわからなければメンバーもわからないだろう…」
そんなとき、そのメンバーがリモート上で挙手をし、いつものように話し始めたのです。報告内容をしっかり理解して、それなりのコメントをしてくれました。
「助かった…ありがとう」
このとき気づきました。しゃべってしまうのは、実はこのチームにとって大切な強みだったのです。
報告会の後に「コメントしてくれてありがとうございます。ぼくは内容が理解できなかったので助かりました」と伝えると、とてもうれしそうに「いえいえ、誰かがコメントしないと困りますもんね」と返してくれました。
この件以来、イライラすることがあっても話を途中で止めることはしなくなりました。話をしてくれたことに「ありがとう」と伝えるようにしています。
昇格がダメになった
そのメンバーは上期に全社イベントの企画・運営をやり遂げました。文句なしの高評価をつけ、昇格条件も整い、上長も承認。しかし、他部門を含めた相対評価の中で昇格選考から漏れてしまいました。
上長から「残念だけどダメだった。伝えてくれ」と言われたとき、信じられませんでした。
ぼくもショックでしたが、それ以上に本人はショックだと思います。給与にも関わることですから、生活がかかっています。どうやって伝えようか、本当に悩みました。
自分を偽らずに伝える
「会社の人事評価とはそういうもの。いくら頑張ってもダメな時はダメ」と機械的に伝えるか。「チャンスはまだあるよ!」と軽く言い流すか。「すべて私の責任です」と開き直るか。
どれもしっくりこない。自分が伝えたいことを偽っている気がしました。
打ち合わせの後に時間をとってもらい、正直に伝えました。部門としては昇格で評価をつけて提出したけれど、部門間の相対評価で残らなかったと。
「えっ…そうなんですか…」
動揺した様子で宙を見回し、うつむいて涙をすする音がしました。ぼくも悔しさが込み上げてきました。小さな声でつぶやきました。
「今回チャンスだったのに…もうあんなに頑張れませんよ…」
頑張ってきたのはぼくも近くで見ていました。そんな気持ちになるのは当然です。
「ぼくも部門長もこれまで通りバックアップするから、次も一緒にがんばろう」
そう伝えるのが精一杯でした。もっと良い言葉はなかったか。情けない気持ちでいっぱいでした。
チームがモチベーションを支えた
昇格できなかったのは残念でしたが、同じ時期、そのメンバーが取り組んでいたプロジェクトが成果を上げていました。メンバーをリーダーとしてチーム全員で意見を出し合ってつくったテーマで、全員が思い入れのあるものです。
部内外でプレゼンするたびに、「プレゼンすごくよかったです!」「資料もわかりやすかった!」「もっと広げていきましょう!」とメンバーや周囲から励ましの声を浴びていました。
主役を支えているのは、チームメンバーや周囲からの「認める言葉」という歓声なのだと思います。
メンバーの声を聞いてみた
そのメンバーにとって、ぼくのチームはどんな存在なのか。思い切って聞いてみました。
「そんなこと聞いてどうするんですか?」とか言われましたが、話してくれました。
「昇格の件でへこたれてもしょうがないじゃないですか。上司から次回はがんばろうと言葉をもらったこと、家族が協力や応援してくれること、それがモチベーションになっています」
「チームは一緒に良いものをつくっている仲間です。いつでも相談できる。小さなことかもしれませんが、実はすごく大きい。うちのチームは風土がとても良いと思います」
2年前には考えられなかった言葉です。組織もちゃんと成長するんですね。
次のテーマを相談したとき、「私がやります!」と即答してくれました。遅刻や欠勤もほぼなくなっています。毎期、マネージャー候補として推薦していますが、部門長から「なんであの人?」と言われることもなくなりました。
チームの一人ひとりを、チームの力で支え続けよう。
昇格が叶わなくても、腐らずに立ち上がって前に進める。それはチームが支えてくれているから。一人ひとりを支える組織をつくることが、マネージャーの大事な仕事です。
