突然の異動相談
今の組織のメンバーとはだいぶ長い付き合いになってきました。共に苦労しながらグループをここまで進化できたのは、今のメンバーのおかげです。しかし、そのメンバーが一人、異動したいと申し出てきました。ショックと同時にどうして?なんで?とあたふた。これからどうなることやら。
7月の出来事です。リモートであるメンバーと打ち合わせをしていました。打ち合わせが終わった後に、「ちょっと話したいことがある」とぼくに声をかけてきました。
「ちょっと話したいことがある」というフレーズは、上司にとってドキッとする言葉です。良い出来事かもしれないのですが、どうしても悪い方を想像してしまいます。
最近そのメンバーが仕事やご家族のことで困っている様子もないし、特に悪いことは思い浮かばない。まあ、そんな大袈裟な話ではないだろうと投げかけに答えました。
ぼく「うん、スケジュール空いているとこに1時間くらいいれといて。リモートでいい?」
そのメンバー「いえ、できれば対面がいいです。ちょっとリモートでは話しにくい内容なので」
ん?話しにくいってなんだ?頭をグルグル回転させて、最近のそのメンバーの行動や言動を思い出しながら、悪そうな出来事を探しましたが思い当たらない。どうしても気になってしまいました。
ぼく「え、どんなこと?いま少し話すことできる?」
そのメンバー「いえ、話しにくいです。驚くと思うので」
ぼく「あ……ああ、そうかあ……じゃあ対面で聞こうか」
そのメンバー「はい、おねがいします。キャリアチェンジの話です」
ぼく「(心臓がギュッとなる)……キャリアチェンジね。対面で聞く前に聞いちゃったね」
確かに驚きの話です。キャリアチェンジということはぼくのグループから離れて別のグループへ異動したいということです。マネージャーのぼくにしてみれば絶望的な一言です。人員は減る、メンバーの負担が増える、ぼくの負担も増える、今後の目標達成に支障が生じる。こんな打算的なことが最初に浮かんでしまう。なんか嫌な自分です。同時にこれまで一緒に仕事をしてきた時間を思い返しながら、共に苦労を重ね、成長してきた仲間がいなくなる寂しさが込み上げてきました。
そのメンバーはキャリア志向だし、今回の出来事自体に違和感はなかったんです。だけど気になったのが、異動したい部署をぼくに伝えなかったんです。何をしたいのか、そのためにどの部署に行きたいのか、決まったらお知らせします、と言うだけに止まっていました。
対面のミーティングを改めて設定しました。その中で行きたい部署について話があるものだと思っていました。
そのメンバーの本当の気持ち
対面での相談の時間がやってきました。すでに異動したいという意思は聞いています。ぼくが気になるのはどんなキャリアを求めてどこの部署にいきたいのか、それとその理由でした。他部署へ異動して成長したいと考えているならば、完全にぼくが成長の機会を準備できなかったことが原因です。
そのメンバー「もうこのグループも長いですし、そろそろ新しい部署でキャリアアップしたいと考えています。7月にキャリアチェンジを出して上司と人事の承認が出れば、来年1月には異動ができると思うので。このグループは大好きですし、大変お世話になったので、ご迷惑かからないように1月までの間にしっかり仕事を引き継いでいきます。行きたい部署はまた今度お伝えします」
ぼく「このグループが好きだって聞けてよかったです。引き継ぎの件も配慮してくれてありがとう。でもすごく残念な気持ちです。もう少し一緒に仕事がしたかったです。ようやくこのグループもデジタル化に舵を切ったタイミングですし、デジタルの仕事でリーダーシップをとってほしかったので」
そのメンバー「ありがとうございます。でもサブリーダーがいるので大丈夫です。できればこのグループに新しい人が入ってくるといいのですが」
ん?サブリーダーがいるので大丈夫ってどういうことだ?ちょっと違和感を感じました。「あ!」とぼくは気づきました。そういえば1ヶ月ほど前にこんな訴えがありました。
そのメンバー「サブリーダーがワタシに対してキツいこと言うんです。もう限界ですよ。精神的にもたないです」
ぼく「サブリーダーは思ったことをはっきり言う人だから、言い方キツいときあるよね」
そのメンバー「違うんです。分かってないんですよ。グループで話すときとワタシと二人で話すときでは、言い方が違うんです。すごくキツいんですよ。耐えられないです!出社するのもキツいです」
そのメンバーは気になることや、不満に思ったことは、都度ぼくに話してくれておさまっていました。今回もそのひとつくらいに思っていました。でも今思えばこの時はいつもと違う様子でした。続けてこう言いました。
「このグループでサブリーダーとあなたは2トップです、とかもう言わないでください。言うたびにサブリーダーのシゲキになって、ワタシにキツく言うんですよ。本当につらいんです!」
確かにぼくはこのグループを今後引っ張っていくのはサブリーダーとそのメンバーの二人です、と朝会の中でも言うことがありました。しかし、このことが悪さをしていたとは思いもよりませんでした。
この時、そのメンバーは限界だったのかもしれません。キャリアチェンジはこのことが引き金になったんじゃないかと思いました。気づくのが遅かった。
キャリアチェンジを正式に申請するかしないかは置いといて、この問題をなんとかしたい。もしキャリアチェンジをすることになって、来年1月から異動したとしても、残り半年の間、このグループの仲間と充実した時間を過ごしてもらいたいと考えていました。
つらさの正体
サブリーダーはそのメンバーの数年先輩です。先輩に対して「あなたの言動でつらい思いをしているから改善してくれ」と伝えるのは難しい。そのメンバーも言いにくいと言っていました。
かといって、ぼくが「あなたの言い方がキツく感じてつらい思いをしているメンバーがいます。だから改善してください」とサブリーダーに伝えれば、告げ口したような感じになって二人の関係性が悪くなってしまう。そのメンバーはそれも避けたいということでした。
そのメンバーがキツく感じるときは、サブリーダーから指示的に言われた時だということがわかりました。サブリーダーは先輩だけど同僚です。同僚にも関わらず「こうやってやりなさい、あれはやってはいけない」など指示をしてくることが耐えられない。そのメンバーは自主独立の精神が強いのです。それとサブリーダーの言っていることは割と正しいから反論もできないということでした。
サブリーダーの事情
ぼくはサブリーダーを次期マネージャーとして育成しています。会社にも次期マネージャー候補としてあげていますし本人もその気満々です。そうした気概もあるせいか、「2トップ」という言葉に反応し、そのメンバーに対して嫉妬のようなものが芽生えてしまったのかもしれません。あくまで想像です。そもそも2トップなんて言わなければよかった。配慮の無い発言でした。
サブリーダーはいろいろとご事情があり、仕事をがんばりたいという熱意が高いです。マネージャーを目指すのもそのひとつであり、大切にしていることです。並々ならぬ思いがあります。
そうした思いがあるのを知りながら、ぼくは「2トップ」なんていう言葉を発して、悪い方向へ刺激してしまったことを反省しています。
というのも、サブリーダーはこれまでそのメンバーに対してキツく言うことは何度もありました。それは相手を考慮せず自分都合で仕事を進めることがあり、そのことに対して黙っていられず直言していました。気づいたことは言葉として発してしまう傾向があります。本人は悪気なく「指導」のつもりなんです。
このレベルでおさまっていれば問題なかったのですが、ぼくの「2トップ」の一言が、その「指導」を助長してキャリアチェンジ検討につながってしまったのかもしれません。
悪者を作らない解決の模索
ぼくは上期の評価面談の中で解決のきっかけを作ろうと決めました。評価フォーマットには「成果に対するフィードバック」と「改善点」の記載項目があります。改善点として次の内容を記載し、面談の中で伝えました。マネージャーになるために「聞く力」を高めてほしいという期待です。
「上期は、目標達成に向けて関係者への指示も的確で必要なコミュニケーションは全てとって頂けました。さらにコミュニケーション力を向上させるために、メンバーの意見にも落ち着いてしっかり耳を傾けることで、メンバーの力を引き出し、個人の力を拡大できると観察しています。下期は『聞く力』をテーマに取り組んでみてください。期待しています」
サブリーダーは自分が気づいたことをすぐ言葉にしてしまうことは課題だと理解していました。そして「聞く力」について意識して取り組みたいと話してくれました。ぼくは気づいたことをすぐ言葉にするのはサブリーダーの強みだと思っています。それを邪魔せずにメンバーとの関係性を改善するにはどうしたら良いかを考えて、「聞く力」を伸ばしてほしいと伝えました。サブリーダーにとっても、そのメンバーにとっても、グループにとっても良い方向へ向かう解決になると信じています。
改善の兆し
サブリーダーに伝えた後は、そのメンバーから苦情はありません。朝会の中でもサブリーダーが「聞く力」を意識して話さないでいる様子(ガマンしている様子)が伺えます。キャリアチェンジについても相談が止まっており、本人がどのように考えているのかわかりません。近いうちにぼくから確認してみたいと思います。
ただ、何かグループの絆が一皮むけたような雰囲気を感じています。ぼくだけでしょうかね。来週月曜日はランチ懇親会があります。みなの笑顔を見ながら美味しいランチを食べる。こんな幸せな時間はありません。楽しみです。
この出来事からの学び
そのメンバーがキャリアチェンジを相談してくる前に、ちゃんと「部署を異動したいくらいつらい思いをしている」というサインがありました。しかし、ぼくは「いつもと同じことを言っているな」と思い込んでしまった。効率的に仕事を進めたいというマネージャーとしての役割がフィルターになっていました。その結果、本当は望んではいなかったキャリアチェンジという選択まで追い込んでしまったのかもしれません。
そう思うと、1回1回のコミュニケーションの大切さを身にしみて感じます。その場所で、その時、その瞬間にそこにいる人が感じていることをわかろうとすること。マネージャーという立場や役割を超えてわかろうとすること。そうすることがお互いを大切にすることにつながるんじゃないか。そんなことを考えさせられた出来事でした。
「この人はこういう人だから、こんなときはこう反応する」と思い込んでしまう代わりに、「今この瞬間、この人は何を感じているんだろう」とわかろうとする。そんな姿勢で人と向き合っていきたいと思います。
立場や役割を超えて、相手をわかろうとしよう。
「いつもと同じ」と思い込まず、「今この瞬間、この人は何を感じているのだろう」とわかろうとする。その姿勢が、お互いを大切にするコミュニケーションの第一歩です。
